海底に沈む豪華客船「タイタニック号」を見に行くツアーの潜水艇「タイタン」が水中で消息を絶って5日。
アメリカの沿岸警備隊が発表したのは乗員5人の生存が絶望的であるということでした。
タイタン号の船体の一部が海底で見つかったのです。
タイタン号は水圧でつぶれたとみられ、タイタン号を運営する米ツアー会社オーシャンゲートも乗員5人は全員が死亡したとの見解を示しました。
行方不明となってからは世界中の人々が注目し、乗員の無事の帰還を祈っていましたが、その祈りも叶わず最悪の結果を迎えることになりました。
犠牲となった乗員の方々のご遺族のショックと悲しみは如何ばかりでしょうか…。
このタイタン号は以前から危険性を指摘されていました。
おまけにこのツアーの参加料は25万ドル(約3,500万円)と超高額。
危険性を指摘されていたのにもかかわらず、高額の参加料まで支払い、なぜこの5人はツアーに参加することになったのでしょうか?
潜水艇タイタン号の衝撃的な事故
潜水艇タイタン号は、沈没した豪華客船タイタニック号の残骸の見学が目的で、探索ツアー中でした。
(↑1996年のタイタニック号の船首)
6月18日に潜水を始めて約2時間後に連絡が途絶え行方不明に。
その直後、現場海域では爆発音のようなものが検知されていたことをアメリカ海軍高官の話として伝えられています。
この時点でタイタン号は水圧に押しつぶされて大破していた可能性が高く、そうであれば乗船者は即死であったことでしょう。
危険性は以前から指摘されていた
ツアーの運営会社の従業員が5年前、タイタン号の安全性の不備を指摘していました。
水深およそ4000mまで潜れるとされているタイタン号の窓が、1300mの圧力までしか耐えられない物だと主張していたのです。
しかしあろうことか、この従業員はこの指摘の直後、解雇されてしまったのです。
今思えばこの従業員の意見に真摯に耳を傾けていたら、今回の事故は避けられたのかもしれません。
またこのタイタン号は、素材や形状についても特殊だったと言われています。
通常深海艇にはチタンが使用されているのですが、タイタン号はカーボンファイバー製。
カーボンファイバーはチタンに比べ安価で強度も大きいのですが、
タイタン号が向かうような深海底で試されたことはほとんどありません。
また形状ですが、深海潜水艇は球体が一般的。
そうすることで水圧を均等に受けられるからです。
ところがタイタン号は筒のような形をしているので水圧が均等に分散されません。
圧力テストなどへの懸念が専門家から示されていたにもかかわらず、運営会社は警告を聞き入れなかったそうです。
乗客5人のそれぞれの事情
今回の乗客達は、タイタン号が抱えるこのような問題、安全性への危惧を果たして知っていたのでしょうか?
■シャサダ・ダウッド、スレマン・ダウッド親子
父親のシャサダさん(48歳)は実業家でありパキスタン屈指の富豪一家の出身。
さまざまな自然の生息地を探索することに興味があり、タイタニックに関しては子供の頃から夢中だったそうです。
息子のスレマンさん(19歳)は大学生。
今回最も若い犠牲者となってしまったのですが、スレマンさんはこのタイタニック探索ツアーをとても怖がっていたことを親族の方が証言しています。
出発前にスレマンさんと話したという叔母のアズメ・ダウッドさんによると、スレマンさんはもともと乗り気ではなく怖がっていたけれど、父親との絆を深めるために出かけることにしたということです。
その結果がこの悲劇で、父親ともども亡くなってしまうなんて、運命の残酷さを感じてしまいます。
■ハミッシュ・ハーディングさん(58歳)
プライベートジェット販売代理店を経営。
イギリスの冒険家でもありいくつかの探検で偉業を成し遂げた人。
南極へ複数回の旅行に行っていて、昨年は有人飛行で宇宙へ飛び立ったそうです。
宇宙にも行くなんて、さすが富豪ですね。
タイタニック号見学の潜水は昨年6月に予定していたそうですが、潜水艇の損傷で延期されたのだそうです。
そんなことがあったのなら、今回は大丈夫だろうと思ってしまうのは自然の流れかもしれません。
■ポールアンリ・ナルジョレさん(77歳)
元フランス海軍の潜水士。
「ミスター・タイタニック」のニックネームで知られていてどの探検家よりも長い時間をタイタニック沈没現場で過ごしてきたとされています。
タイタニックが発見された2年後の1987年には、沈没現場を最初に訪れた探検隊に加わった方です。
現在はタイタニックの残骸の権利保有会社で、水中調査のディレクターを務めているということですが、
そこまでタイタニックの潜水見学に関して経験豊かそうな方でも、今回のタイタン号の素材や形状の異質さに何も違和感を感じなかったのでしょうか?
■ストックトン・ラッシュさん(61歳)
今回の潜水旅行を運営しているオーシャンゲートの最高経営責任者であり、今回のタイタン号の操縦士であり、経験豊富なエンジニアでもあるそうです。
しかしこの方かなり癖の強い人物のようで、経営者でありながら「安全は全くの無駄だ」という爆弾発言をかましていらっしゃいます。
オーシャンゲートの安全手順に関して、オーシャンゲートの元社員1人と海洋学者達が5年以上に渡り警笛を鳴らしていたようなのですが、スルーし続けていたようです。
昨年のことですがラッシュ氏は記者に対して、
「ただ安全でいたいなら、ベッドから出ず、自動車にも乗らず、何もするなという意味だ。
ある時点で人は何らかのリスクを負うことになるだろう。
全くリスクとリターンの問題だ」
という持論を口にしていました。
安全第一が当たり前である日本人にとっては、公式の場でのこのような発言をする人というのはちょっと理解し難いです。
少なくとも人様を海底深くに連れて行く会社の、最高経営責任者が言っていいこととは思えません。
このようなスタンスなので、タイタン号に乗る乗客には死亡のリスクがあることを記載した書類に署名をさせるそうで、何があってもあくまで自己責任ということを了解させているんですよね。
それで経営が成り立っているのは、これまで大きな事故がなかったからと言えるのかもしれませんが…。
直前でキャンセルした人もいた
今回亡くなったハミッシュ・ハーディングさんの友人である富豪のクリス・ブラウンさん(61歳)。
この方も乗る予定で予約金を支払っていたそうですが、安全上の懸念から乗船しなかったことが最新の情報では明らかになっています。
「バハマで行われた潜水艇のテストを見た際、少し雑な印象を受けた。
バラストに工業用配管を使ったり、操舵にXboxのコントローラーを使っていた。
(中略)彼らが認証を受けることを拒否していたことは、本当に問題だと感じた」
(クリス・ブラウン氏談)
クリス・ブラウンさんの判断は正しかったようですね…。
まとめ
クリス・ブラウンさんは見ただけで安全上問題があると感じた。
他の方たちは感じなかった。
そこが運命の分かれ道になったわけですね。
感じなかった5人は、今まで事故は起こっていないから大丈夫だろうと判断したのでしょうか。
不安を感じないことが勇気だと思ったりしたのでしょうか。
探検にはリスクはつきもの、というのは確かにそうでしょう。
タイタン号の会社の最高責任者であり、今回の操縦士でもあるストックトン・ラッシュさんは
安全手順に関する警告に対して「リスクとリターンの問題だ」と言うだけで重く受け止めなかったようですが、その傲慢な姿勢が自分自身の死を招くことになってしまったと言っても過言ではないと思います。
人生において、何か活動すればリスクはつきものだし、いくら気をつけていても避けられない事故や災害はあります。
しかし今回の事故は避けられたのではないでしょうか?
人間は自分の生きたいように生き、やりたいようにやる権利はありますが、命を落としてしまっては元も子もありません。
タイタン号に乗船した5人は亡くなってしまいましたが、元米海軍の博士は5人の死の瞬間について、
「一瞬で水圧におしつぶされ、あまりにも突然だったので痛みを感じる間もなく亡くなっただろう」
という見解を示しています。
苦しまなくてすんだのならよかったと思うし、ご遺族の方にとっても救いになりますね。
亡くなられた5人の方のご冥福をあらためてお祈り致します。