毎日新聞
「ピアノと医学部って、まったく違う世界だと思ってた」
そんな先入観をくつがえす存在が、双子のピアノデュオ「兄ーズ」です。
2歳から鍵盤に向かい、数々の音楽コンクールで輝かしい結果を残してきた彼らが、2025年、国立大学の医学部に現役合格。
しかも、ふたり揃って。
ただの“文武両道”では片づけられないその背景には、日常では見えない積み重ねや、想像もしないきっかけがありました。
「やり続けることが大事」と語る家族の言葉、支え合う兄弟の関係、そして何より、ひとつの道に縛られなかった柔軟な選択。
本当に大事なのは、「どちらか」ではなく「どう向き合うか」だったのかもしれません。
ピアノと医学部の“二刀流”に隠された、彼らなりの答えを探ってみます。
ピアノと医学部の“二刀流”は可能か?
「やっぱり無理だよね、普通は」
兄ーズのような“二刀流”の話を聞いたとき、そんなふうに思った人、多いのではないでしょうか。
医学部という日本で最難関の進路。
そしてクラシックピアノという、練習量と表現力の積み重ねが命の芸術分野。
どちらか一方でも並大抵の努力では到達できないはずなのに、兄ーズは両方を“現役合格”という形でやりきってしまった。
それって、実際のところ、どういうことなんでしょう。
・「本当にそんなこと可能なの?」
・「親が全部サポートしてくれてたのでは?」
・「天才ってだけじゃないの?」
——SNSでも、そんな疑問と驚きが入り混じった声が多く見られました。
でも、彼ら自身はいたって自然体。
「勉強とピアノは、どっちもやっていた。切り替えてただけ」とあっさり話しているのです。
例えば、朝7時に起きて学校に行き、放課後はすぐ予備校へ。
帰宅後にピアノの練習。
そして夜中はまた復習。
土日は模試と連弾練習。
そんな生活を「当たり前」と言ってのける高校生が、果たしてどれほどいるでしょうか。
確かに、普通じゃない。
でも、“不可能”ではなかった——。
この差って、たぶん「優先順位」と「時間配分」の感覚なんですよね。
彼らは高校1年生の時点で、すでに「医学部に行く」と決めていた。
その上で、週20時間を勉強に、残りの時間をピアノに。
高2で30時間、高3では40時間以上を勉強に費やしつつ、ピアノは完全には手放さなかった。
つまり「どっちか」ではなく「どうやって両方やるか」を、最初から考えていたということ。
これ、言葉では簡単に聞こえるけど、実際には相当な覚悟が必要です。
誰だって、どこかで「今日はピアノやめようかな」「このテストだけ乗り切ろう」とか、ブレそうになる。
でも彼らは、ブレなかった。
むしろ、ピアノをやっているからこそ勉強にも集中できるし、勉強があるからこそピアノが“逃げ場”になった、とすら言っているんです。
“両立”というより、“共存”。
ふたつの才能を支え合うようにして積み上げた結果が、今の彼らなのかもしれません。
「二刀流なんて、自分にはムリ」と思うのは簡単です。
でも、“できない”って思ってるのは、自分だけかもしれませんね。
兄ーズが医学部に合格できた理由
「やっぱり地頭が良いんでしょ?」
正直、そんな声も少なくありません。
でも、兄ーズの合格ストーリーを詳しく見てみると、「地頭」だけでは到底語れないリアルな背景が浮かび上がってきます。
たとえば、彼らが医学部志望を決めたのは高校1年生のとき。
きっかけは、難病を抱える弟の存在でした。
“弟を救えるような医師になりたい”
そう思った瞬間から、彼らの勉強への向き合い方が一気に変わったそうです。
「なんとなく良い大学に行こう」ではない。
「家族を救う」という、目的のある受験。
この“覚悟の差”が、日々の努力量に表れていきます。
前述しましたが、
高1の段階で週20時間。
高2では30時間。
そして高3では、なんと週40時間以上も勉強していたといいます。
この数字、ちょっと異常ですよね。
でも、それだけの集中力と持続力があった。
「試験前だからピアノを休む」
そんなこともほとんどなかったとか。
じゃあ、なぜそんなことができたのか。
それは、おそらく“自分の中にブレない理由”があったからです。
弟の存在。
ピアノというもうひとつの軸。
そして、「医者になる」という、明確な目標。
誰かに言われたからやるんじゃなく、自分で選んだ道だったから、続けられた。
これって、勉強でも仕事でも同じですよね。
「やらされてる」と思うと辛くなるけど、「やりたい」と思ったら、踏ん張れる。
もちろん、才能はあります。
でも、コンクールで優勝する実力があるのに、それでも日々の練習を欠かさず、勉強との時間も調整して。
“手を抜かない天才”って、やっぱり強いんです。
ちなみに、兄ーズが通っていたのは医学部専門の予備校。
高校生活と両立しながら、毎週決まった時間を割いて通い続けたそうです。
予備校=浪人生のイメージがありますが、彼らは現役。
そこにも“先取り”の戦略がありました。
一歩先を読んで動く力。
自分の状態を客観的に見る目。
この冷静さが、いわゆる「天才」とは違う、計画的な「実力者」の雰囲気を醸し出しています。
“ちゃんと努力してる人”って、どこかで伝わりますよね。
X(旧Twitter)でも、「あの子たちは天才というより、戦略家だよね」と評価する声もありました。
兄ーズが医学部に合格できたのは、才能だけでも、環境だけでもありません。
一番の理由は、“人生の主導権”を自分で握っていたこと。
自分の未来を、自分の意思で選び続けていたからこそ、結果がついてきたんだと思います。
“やり続ける力”と家族の支え
「結局、才能がある人って、環境も恵まれてるよね」
——そんなふうに思った人、少なくないかもしれません。
でも、“環境がある=うまくいく”って、実はイコールではないんですよね。
兄ーズの家庭環境は、確かに特別なところがあるかもしれません。
難病を抱える弟がいて、医療の大切さを肌で感じていた。
それだけに、日々の暮らしにはピリッとした緊張感があったはずです。
それでも、ピアノの練習を止めなかった。
それでも、医学部に挑むと決めた。
その裏には、家族の“静かな覚悟”がありました。
彼らがよく語っているのが、両親の口ぐせ。
「やり続けることが大事だよ」
——一見すると、なんでもない言葉ですよね。
でも、これがずっと言われ続けていたとしたら?
何かに迷ったとき、諦めそうになったとき、その言葉が自然と心の中に浮かんできたとしたら?
小さな言葉が、大きな支えになる。
それは、親なら誰でもできる“声のサポート”かもしれません。
また、兄ーズの兄・順一朗は慎重派。
弟・宗一郎は行動派。
性格も違うけれど、それがかえって互いのバランスになっていたそうです。
ピアノの連弾も、勉強のペース配分も、「ふたりだから乗り越えられた」と話しています。
これ、兄弟がいる家庭にとっては、かなり希望がある話じゃないでしょうか。
“ケンカばかりで協力なんて無理”と思っている人も、もしかしたら、お互いに刺激を与え合える“ライバル”であり“相棒”になれる可能性があるんです。
そしてもうひとつ。
兄ーズがずっと語っているのが、「ピアノも勉強もやめなかった」ということ。
どちらかをやめていたら、きっと気持ちが揺れていた。
どちらかを選ばず、どちらも選んだからこそ、「やり続ける」ことができた。
この“持ち続ける勇気”って、簡単そうで本当に難しいですよね。
好きなことを貫くって、大人になればなるほど、つい言い訳が増えてしまう。
でも、兄ーズはそれを18歳でやってのけた。
「やり続ける覚悟」があったからこそ、「やり続ける力」が育った。
そして、その土台にあったのが、両親の一言、弟の存在、そして“誰にも見えない毎日の積み重ね”だったんだと思います。
ピアノと医学部の“二刀流”。
一見、相反するように見えるふたつの世界を、兄ーズは真正面から向き合い、自分たちの手で両立させました。
その理由は特別な才能や環境だけではなく、“やり続ける”という覚悟と、それを支える家族の存在。
このふたつが揃ったとき、人は驚くような結果を生むのだと、彼らは証明してくれたのかもしれません。
もしかすると、あなたの「本気」も、“続ける”ことで誰かを動かす力になるかもしれませんね。