
田中祉恩さんが22歳という若さで急死されました。
ボディビルダーが20代や30代という若さで突然亡くなったというニュースを目にすると、「あんなに逞しく強そうなのに、なぜ?」と驚愕してしまいます。
以前、息子の勤務先で若い方が倉庫で倒れて亡くなったのですが、その方がボディービルをやっていて筋骨逞しい男性だったと聞いた時も同じような気持ちになりました。
強い意志を持ち、自らの体を鍛えるという努力を惜しまなかったはずの人が突然死してしまうなんて…。
私自身は完全な素人ですが地道に宅トレをしている身で、筋トレというものは健康のためにするに越したことはないと信じています。
しかし調べてみると実は、一般的な「筋トレ」と競技レベルのボディビルでは、身体にかかる負担が大きく異なるのだということがわかってきました。
実際、近年の研究ではプロのボディビルダーはアマチュア選手に比べて、心臓突然死(Sudden Cardiac Death:SCD)のリスクが高いことが報告されています。
その背景にあると考えられているのが、過酷な減量や長年にわたる高強度のトレーニングなど、さまざまな要因です。
では、競技レベルの身体づくりでは、心臓にどのような負担がかかるのでしょうか。
ここからは、ボディビルダーが若くして亡くなる理由を、最新の研究結果をもとに分かりやすく見ていきます。
目次
田中祉恩が急性心不全で急死した理由
田中祉恩さんは急性心不全で亡くなりました。
心不全というと高齢者が罹患するイメージがあります。
しかし実は、ボディービルダーの死で最も多い原因とされているのが心臓突然死です。
2025年に発表された欧州の大規模研究では、2005年から2020年までに国際大会へ出場した男性ボディビルダー約2万人を追跡調査しました。
その結果、121人が死亡し、そのうち46人が心臓突然死だったと報告されています。
さらに、プロ選手の心臓突然死リスクはアマチュア選手の約5倍という結果も示されました。
入手できたという剖検では、心肥大や左心室の壁が厚くなる心室肥厚が共通して確認されています。
もちろん、すべてのボディビルダーが同じリスクを抱えているわけではありません。
ただ、競技レベルになると、「筋肉を大きくする」「体脂肪を極限まで落とす」という目標のために、一般的なトレーニングとは比べものにならない負荷が長期間続きます。
亡くなる原因は一つではありません。
いくつものリスクが積み重なった結果として、心臓に大きな負担がかかると考えられているわけです。
ボディービルダーの過酷なトレーニングの実態
ボディービルダーの心臓突然死の背景として考えられているのは、主に4つの要因です。
どれか一つだけではなく、複数の負担が重なっている点が重要です。
① パフォーマンス向上薬(PED)の使用
最も大きな要因として挙げられるのが、アナボリック・アンドロゲン・ステロイド(AAS)などのパフォーマンス向上薬です。
競技レベルでは使用率が高いとされ、長期間の使用によって心筋が異常に厚くなったり、血圧が上昇したりすることで、不整脈や心不全につながる可能性があります。
剖検で薬物使用歴が確認された例も少なくありません。
② 極端なトレーニング
高重量を扱うトレーニングは、筋肉だけでなく心臓にも大きな負荷をかけます。
通常の運動でも心臓は鍛えられますが、長年にわたる極端な高負荷トレーニングでは、「アスリートの心臓」と呼ばれる適応を超えて、病的な心肥大へ進む可能性も指摘されています。
筋肉を追い込んでいる間も、心臓は常に働き続けているということなんですよね。
③ 大会前の急激な減量と脱水
大会前に行われる、急激な減量と脱水も大きな負担です。
ボディビル競技では、体脂肪を極限まで落とすために、水分制限や厳しい食事管理を行うことがあります。
さらに利尿剤を使用するケースでは、カリウムなどの電解質バランスが崩れ、不整脈を起こしやすくなることが知られています。
もともと負担がかかっている心臓に脱水状態まで重なる。
この組み合わせが、突然死の引き金になる可能性があるわけです。
④ 腎臓や血管への負担
見落とせないのが、腎臓や血管への影響です。
高タンパク食や脱水、薬剤の影響は、心臓だけに表れるわけではありません。
腎機能の低下や高血圧、動脈硬化なども進行しやすく、それらが結果として心血管疾患のリスクを高めるケースもあります。
つまり、「これだけが原因」という単純な話ではないんです。
複数の負担が重なり、最終的に心臓へ大きなダメージを与えることが問題だと考えられています。
一般的な筋トレと競技ボディビルは何が違う?
ここは、特に誤解されやすいポイントです。
今回紹介した研究結果は、競技ボディビルダー、特にプロ選手を対象にしたものです。
そのため、ジムで健康維持やダイエットのために筋トレをしている人へ、そのまま当てはまるわけではありません。
むしろ、適度な筋力トレーニングには、心血管疾患の予防や生活習慣病の改善など、多くの健康効果が認められています。
大きな違いは、「健康のために鍛える」のか、「競技で勝つために極限まで身体を作る」のかという点です。
競技では筋肉量や体脂肪率を数%単位で追求するため、一般のトレーニングとは比較にならないレベルの減量やコンディショニングが求められます。
筋トレそのものが危険なのではありません。
極限まで身体を追い込む競技特有の環境が、大きなリスクにつながるということなんです。
ボディビル競技で求められる安全対策とは
では、競技を続けながら身体を守るために、どのような対策が求められるのでしょうか。
近年では、競技団体や研究者から安全対策の必要性が強く指摘されています。
具体的には、次のような取り組みです。
- 心電図や心エコーによる定期的な心血管検査。
- 大会会場へのAEDの常設。
- 選手への心疾患リスク教育。
- 極端な減量や脱水への注意喚起。
ボディビルは、多くの人にとって努力や自己管理の象徴でもあります。
だからこそ、競技を続けるためには、「強い身体を作ること」と同じくらい、「身体を守ること」も重要なのではないでしょうか。
近年相次ぐ若い選手の訃報は、競技そのものを否定するためのものではありません。
むしろ、安全性について改めて考えるきっかけとして受け止める必要があるのだと思います。
亡くなられた選手に対しては心より黙祷を捧げたいと思います。
